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京都地方裁判所 昭和25年(行)2号 判決

原告 中村吉郎

被告 京都府教職員適格審査委員会

一、主  文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事実及び理由

原告は被告は原告に対し昭和二十三年十月二十六日附でなした教職不適格者としての判定を取消せとの判決を求め、その請求の原因の要旨は

原告は東京都教職員適格審査委員会において適格の判定を受けたものであるが、被告は昭和二十二年文部省訓令第三号(以下訓令という)第二十三條の規定によつて再審査の結果昭和二十三年十月二十六日、原告に対し、昭和二十二年文部、外務、司法、逓信、厚生、内務、大藏、運輸、農林省令第一号別表第一の三および四に該当するものとして不適格の判定をなした。しかしながら右判定は次の理由によつて取消すべきものである。すなわち

(一)  教職適格審査は、昭和二十二年政令第六十二号(昭和二十年勅令第五百四十二号「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件」に基く教職員の除去及び就職禁止等に関する政令)(以下政令という)第六條の規定に基き前記共同省令第一号(以下省令という)第五條の規定により徴した調査表によつて行われなければならない。

しかるに被告は原告がたまたまその作成にかかる調査表類似の書面を所持していたのを奇貨として、これを政令第六條の規定による調査表と擬制し、該書面によつて審査をなした違法がある。

(二)  被告は原告に対して当初審査の結果昭和二十三年三月三十一日附で不適格と判定したが、右判定は訓令第二十三條の規定に違反したものとして同年十一月十七日附をもつてこれを取消した。しかしながら、被告が原告に対して訓令第二十三條の規定によつて再審査をなした同年十月二十六日当時には、同年三月三十一日附でなした当初の右審査の結果についてまだ取消の効力が発生していないのであるから、被告は原告に対してすでになした審査の形式的効力の存続中再び同一の審査をなした違法がある。

(三)  被告は原告を審査するに際し、訓令第十三條の規定による事実陳述についての請求の機会を原告に與えなかつた違法がある。

(四)  文部大臣が被告に対し、訓令第二十三條の規定により原告の再審査を命じたとしても、省令第一條第三項および訓令第一條の規定に照應すれば被告が原告を審査することは違法である。

右いずれの点からするも前記判定は違法であるというにあつて、右は要するに京都府教職員適格審査委員会が前記昭和二十二年政令第六十二号に基き原告を教職員不適格者と判定した審査の結果を違法な行政行爲としてその取消を求める趣旨の爭訟であることが明らかである。

先ず本件について裁判所が裁判権をもつかどうかを考えてみる。そしてそのためには、教職追放に関して発せられた法令が、一般にいわゆる、行政法規の範囲に属するかどうか及び教職員適格審査委員会の審査の結果たる判定が、行政廳の爲した行政処分と言えるかどうかを明らかにせねばならない。

思うに昭和二十二年政令第六十二号(教職員の除去、就職禁止及び復職等に関する政令)は「日本ノ教育制度ノ行政ニ関スル覚書」(一九四五年一〇月二二日)及びその一部を実施するについての細則と見るべき「教職員ノ調査、精選及資格決定ニ関スル覚書」(一九四五年一〇月三〇日)による連合国総司令官の指令の執行のため、制定せられた命令であるが右命令が国内立法によつて制定され、日本国民を対象とする点から見れば、形式的には国内法に属することは当然である。しかしながら進んで右命令の内容や目的、殊に同政令がその第一條において「昭和二十二年十月二十二日附連合国最高司令官覚書日本教育制度に関する管理政策に関する件及び同月三十日附教育関係官の調査、除外及び認可に関する件に基く教職員の除去、就職禁止等については、この政令の定めるところによる」と規定して、それが連合国最高司令官の覚書による指令を直接執行するためのものであることを明らかにしている点から考えると、右政令はたゞ單に国家機関である行政廳の行政活動を規定した、いわゆる行政法規とは自ら性質を異にし、從つてその運用解釈等も一般行政法規の場合とは違つたものとなるのは当然である。

又一方、右覚書の諸條項に徴すると「日本ノ教育制度ノ行政ニ関スル覚書」(一九四五年一〇月二二日)はその第二項において「日本文部省ハ連合国最高司令部ノ所轄部門ト適当ナル連絡ヲ保チ、要求ニ應ジテ本指令ノ規定ニシタガヒ採ラレタルイワユル措置ヲ詳細ニ記述シタル報告書ヲ提出スベシ」とし、その第三項において、「本指令ノ條項ニ該当スル日本政府一切ノ吏僚及ビ公私一切ノ教師ナラビニ学務員は本指令に列挙セル諸方針ノ精神オヨビ規定ノ遵守ニツキ個人トシテ責任ヲ有スルモノナリ」と規定しており、「教職員ノ調査、精選及資格決定ニ関スル覚書」(一九四五年一〇月三〇日)はその第二項以下において「二、日本ノ教育事業ニ現在現実ニ從事シ、又ハ將來コレニ從事スル候補者トナルベキ人ニシテ如何ナルモノガ日本ノ教育事業ニ從事スルニ不適当ニシテ、ソノ如何ナル地位ヨリモ解職、除外、禁止セラレザルベカラザルカヲ決定スルタメニ、ココニ以下ノ如ク指令ス、(イ)日本国文部省ハ現在及ビ將來ニオケル一切ノ教師ト教育職員ニツキ有効ナル調査、精選、及ビ資格決定ヲ行ウタメニ適当ナル行政機関ト手続ヲ設定スベシ、(ロ)日本国文部省ハ本指令ノ規定ニ應ズル爲ニ執ラレタル一切ノ措置ヲ記述セル詳細ナル報告ヲ出來ル限リ速カニ本司令部ニ提出スベシ。右報告ハ特ニ次ノ事項ニツキ明記スベシ、(1)各教職員ノ留任、解職、任命、又ハ再任命ニ関スル明確ナル標準ノ表ト共ニ各教職員ノ適格ガ如何ニシテ決定セラルベキカノ正確ナル敍述、(2)教職員ノ調査、精選及ビ資格決定ヲ行ウタメニ、如何ナル行政的手続及ビ機関ガ設置セラルベキカニ関スル正確ナル敍述、ナラビニ上訴セラレタル決定ノ再審及ビ前ニ資格決定ヲ拒否セラレタル教職員ノ再考査ノタメニ如何ナル規定ガ設ケラレタルカニ関スル敍述、三、本指令ノ條項ノ適用セラルル一切ノ日本政府ノ官吏及ビ属僚ナラビニ公私ヲ問ワズ一切ノ学校職員ハ本指令ニ述ベラレタル方針ノ精神及ビ規定ニ從ウコトニツキ各自責任ヲ負ウモノトス」と規定している。そこで「教職不適格者としての指定は、主務大臣又は都道府縣知事が、別に定める教職員適格審査委員会の審査の結果に基いて、これを行う」(政令第六十二号第四條)のであるが、この場合、主務大臣又は都道府縣知事は覚書該当指定者として、右覚書による指令に從つて、連合国総司令官に対し、直接責任をもつ者として、その指令の趣旨を執行する機関となつたものであるから、その資格においてした処分は、これを單に、行政官廳が国内行政の執行として、したものと見ることはできず、從つて右指定の基礎となる教職員適格審査会の審査の結果たる判定も又一般行政処分の範囲に属しないものと言わなければならない。

しかして裁判所は、行政事件についても、裁判権をもつが、こゝに、いわゆる行政事件とは、一般行政廳の処分について、行政法規を適用する事件に限るものと解せられるところ、原告が本訴で請求するところは、訴状及び審尋の結果で明らかなように、本來の行政行爲でない、京都府教職員適格審査委員会の審査の結果について、通常の行政法規に属しない教職追放に関する法令を適用せねばならない場合に当る請求であるから、本件はいわゆる行政事件ではなく、もちろん私権に関する民事事件でもないから、裁判所はこのような事件については、裁判権をもたないものと言わねばならない。よつて当裁判所は本訴を不適法にしてその欠けつが補正できない場合に該当するものとして民事訴訟法第二百二條第八十九條を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 宅間達彦 前田治一郎 宮崎福二)

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